死因はインターネット

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棺とは何か?:棺担ぎのクロ。〜懐中旅話〜の結末について

きららオタクとして白状しなければいけないことがあるのですが、5月に最終回を迎え先月末に最終7巻が発売されたきゆづきさとこ先生の『棺担ぎのクロ。~懐中旅話~』について、自分は終盤辺りの展開が連載誌上で読むのが非常に大変でサラッと流し読み程度に抑えていました。

 

というのもこの作品は他の作品と比べメチャメチャのメチャに高いリテラシーを要求されるんですよね。きららでストーリー色の強い作品というと最近では『うらら迷路帖』や『まちカドまぞく』が挙げられますが、うららは2~3巻ペースで、まぞくは1巻13話ごとに山場が設けられており、処理すべき情報の量が整理されていました。しかしことクロに関しては7巻分のストーリーが一つの結末に向かって収束しており情報が錯綜……そもそもラスボスの意図が複雑だったり、シリアス回の間にクールダウン的にほのぼのした話が挟まれて設定が頭から抜け落ちたり、休載したり……とまぁ月刊連載で読むのに向いてないわ!と思ってしまい「これは単行本でまとまってからしっかり読み直した方がいいですね」となってたんですよね。

 

それでもって最終巻を聖地COMIC ZINで購入し、身を清めて既巻分を読み、万全の状態で彼女の旅の行く末を見届けて、「わ~~~満足!!ありがとうございます!!」で済めばよかったんですけど……この作品、テーマが難しいじゃないですか。みんなネタバレを気にしているのか読んだだけで満足しちゃってるのか分からないけどあんまり核心を突いたツイートを目にしない、勿体ない……「ここはこうですよね!」とか言いたい……きゆづき先生の思考を少しでも理解したい……

 

 

と、いうことでアウトプットを通じた思考の整理という面も兼ねてだいたいきゆづき先生はこんなことテーマにしてたんじゃないかな~~~なんてことをつらつら書き連ねていきます。ネタバレ上等なんでマジで未読の人は読まないでください、PV数に貢献したら帰れ。

 

 

 

よく言う言葉で「人間は二度死ぬ、一度目は肉体が死んだとき、二度目は皆から忘れ去られた時」というものがあります。逆に言うとこの世に爪痕を残している限り、誰かに覚えていてもらえる限り、その人の「生」は肯定され続けるのです。

 

棺担ぎのクロ。はそんな誰かが生きていた「証拠」を残す物語です。そして生きていた「証拠」を象徴するのがタイトルにも掲げられた「棺」というアイテムです。棺を担ぐきっかけとなったモーのエピソードしかり……

 

そもそもヒフミがクロと最初に交わしたのは、「死」=「生きていた/自分が自分でいた証拠」を代わりに探す約束です。(連載の途中までは姿を変えられ、黒い染みが侵食する呪い〜なんて描かれてましたけど……ヒフミと伝染病の自我を分けて、この時にヒフミの中のクロの母親がバグって体が崩壊しかけたから伝染病がその原因であるクロの姿を変えたんです〜矛盾はありません〜って軌道修正はなかなかの力技)

クライマックスのヒフミとの対峙において、偶然ではあるもののヒフミの元となった三人の生きていた「証拠」が突きつけられたことで(逆転裁判??)彼女らは記憶を取り戻し伝染病の入れ物としてのヒフミは崩壊しました。

ヒフミの3番目でクロの母親は夫であるクロの父親の石細工、そして何より娘であるクロ本人、2番目はセンが酒場で出会った“鈴蘭”から受け取ったピアス(センがヒフミに惚れたのも恐らく2番目の体がきっかけだし因果って感じですね)1番目はハカセと触れていたニジュクとサンジュを通じて、結果的に交わした約束は果たされました。きゆづき先生なんてストーリーテリングの能力なんだ……

 

 

これはみんな大好き2巻のモーの話の一節

センセイはあれは死んだ人というよりのこされた人の為のものだっていってたよ

体はなくなっても、その人がこの世界にいた「しるし」になるんだって

棺担ぎのクロ。~懐中旅話~2巻 105ページ)

 

と最終話の一節

「葬る」という言葉は存在を無に帰すとか忘れ去る意味を含む事もあるけど

私はむしろ忘れないように彼女を棺の中に入れるんです

本当の彼女を覚えている人はこの世界できっとそう居ないから

棺担ぎのクロ。~懐中旅話~7巻 129ページ)

 

もっとも、棺は棺の形をしている必要はありません。クロが旅路で誰かと出会い、何かの影響を与えてその誰かの記憶に残る……それだけで彼女がいた、生きていた証明たりえます。クロはモーやミリーを魔法で取り込みましたが、同時に彼女らのことを忘れないで生きることでクロ自身が精神的棺になったのです。

 

クロとヒフミの対峙の直前、クロの旅路を追う記者のエピソードが挟まれました。時系列としては全ての後なので連載のとき混乱した……

記者は今までのクロの旅路を追いながら、クロと出会った人に取材をする中で彼女の存在を立証していきます。記憶ではなく記録として。まるで棺担ぎのクロ。という漫画を読んでいる自分達のように。

このエピソードがこのタイミングで挟まれたのは何故なのでしょうかね、コミックを通じて紙とインクに定着された記録が読んだ人の記憶になり、読者はクロという旅人の存在を証明する棺になる……なんてオシャレなことを言ってお茶を濁します。

 

なぞなぞなんだ?

このひとだれだ?

なーんにもしゃべらないくろいたびびとさん

しろいじめんにじぶんのあしあとのこしてく

さてこれいったいなんのこと?

棺担ぎのクロ。~懐中旅話~2巻 51ページ)

(答えは『ペン』です)

 

 

さて、魔女ヒフミは目の前で崩壊した……しかしそこでおしまいハッピーエンドにならずクロの中に留まり身体を蝕みだした黒い呪いにどう決着をつけるかという問題が最後に残りました。ここが作品の解剖を難しくしている、生きていた証拠論だけでは詰めていけない、何か別の軸がある……

作中ではニジュクとサンジュに黒い呪いを肩代りしてもらうことでクロは生き延びることが出来ました。クロはめちゃめちゃに拒んでいたのですが(3巻のエメラルドの都エピでこの結末は仄めかされていますね)ニジュクとサンジュは呪いも彼女の一部、ということでクロの否定を否定し呪いを受け入れることにしました。

 

考えたこともなかった

“クロ”はどこまでが“私”で

どこまでが“呪い”でできてたものだったかなんて

棺担ぎのクロ。~懐中旅話~6巻 65ページ)

 

あたしたちしってる

このくろいののなかみ

いままでのたびのなかクロちゃんのうれしいことかなしいこと

いろんなものがつまってた

棺担ぎのクロ。~懐中旅話~7巻 118ページ)

 

旅のトラブルもいい思い出になる……的なんでしょう。生きていく中で全部が全部いい出来事だけで成り立ってるわけじゃありません。「黒色」の出来事も、そこで自分が感じた負の感情も、全てが自分を形成しています。それも描きたかったことの1つじゃないんでしょうか。

 

 

 

……

 

書こうとすれば書こうとするほど一つのわかりやすい流れに整理するのが出来ないことに気づかされます。十数年、7巻も積み重ねられた分棺担ぎのクロ。には語れるところがいっぱいあるんですよね。それ故複雑で紐解くのが困難、読む時めっちゃカロリーを消費する。

 

本当はもっと書きたいことが思い付いていました、世界の色が灰色……とか、はじまりの王国の崩壊エピソードが完全に失楽園だ……とか、最終話のリットクさんとフカシギさんから見る人間の想像/創造力とか……

 

自分1人の展開だと限界を感じたのでみんな語ってください……多分、灰色の世界から死と黒にアプローチかければもうちょっと整理できるんじゃないのでしょうか???